「お爺様の具合が悪いそうだよ。年末にご帰宅なさるが、工事中の古民家をお見せすることになった。」
と支部長から言われたのでおどろきました。
こんな散けない場所に、体調の良くない方がこられて本当に大丈夫なのでしょうか。
「病院には何があっても文句は言わないと息子さんは誓約して、お連れ戻しになるらしいよ。」
ますます不安になり、12月29日の日曜日、現場に掃除機をかけに行きました。
外ではスクリーンブロックを一人コツコツ積んでいる左官屋さん。年末だと言うのに、暖かく快晴です。
11:00、工事現場にストレッチャーが到着しました。壊していない廊下の端までお連れしました。すると、
「もっと見たい」「もっと奥へ」
とお父さん。大丈夫か親爺、と笑いながら息子さん。
とうとう土間にストレッチャーを降ろされました。
「50年経っても、キレイやなぁ。」
とお父さんが仰いました。
「あの柱はなぁ、なかなかなくてなぁ、今の価格で100万円もしたのを23本買ったよ。梁もなぁ、ちっともいいのがなくて、ずいぶん探して、3人目の今須の大工さんがようやく見つけてきてくれてな…。」
「オヤジ、ずいぶん元気になったなあ!病院の車に乗せるときは大丈夫かと心配したよ。」
「お前の代だから、好きにすればいいって言ったのにな、結局どうや、いざとなったらよう壊さんのやから…」
「そうかね。オヤジ。俺はこの人たちに会ってなかったらこんな古い家は壊すつもりだったよ。」
さらには お外にもお出になり、庭をご覧になって
「こんな大きい滝を作るのか、水はどこに行く?」と排水の心配。
「オヤジ、元気になったなぁ!」
と息子さんはニコニコ。
人は家に帰る事で、そこに包まれる空気を感じ安心すると聞きました。工事中の殺伐と、壁や天井を丸剥きにした現場でお父さんがどうお感じになるのか本当に心配していましたので、なんと30分もお父さんが現場を楽しまれたことにホッとしました。
天井に横たわる大きな棟の丸太や、今でも角ばってしゃんと建っているヒノキの柱の力が、お父さんの往時の興奮を呼びおこし喜んでいただけたそうです。古民家再生協会をやっていて、
「50年たっても、まだ、きれいやな」
の言葉が1番 ありがたく思いました。